「Cute Aggression」北条美弥子誕生日記念shortstory
「皆様、本日は様々な場所から足を運んでくださり、誠に有り難うございます。北条美弥子でございます。」
ソロステージが始まり、着物に着替えた私が深々とお辞儀をすると、皆様拍手をしてくださいました。
「本来であれば、2月の私の誕生日に合わせて行われるはずであったこのステージですが、何の因果か数十年に1度と言われる豪雪にみまわれ本日まで延期されてしまいました。2月にスケジュールを合わせてくださった皆様、大変申し訳ございません。それでも本日来てくださった皆様、こちらにいらっしゃることは叶わずとも生配信・アーカイブでみてくださる皆様、本当に有り難うございます。」
そう、今回は従来と異なり、私のわがままで、配信と現場の2視点から魅せる事になっている。
思えば、オーディションを受けたときも、私はわがままを言っていた。
私は「Cute Aggression」が所属する事務所の社長令嬢。物心ついたときからお稽古に明け暮れ、自他共に作法を完璧にしたと言い切れるほどになった。
大学に上がるのにも何も不自由しなかったし、いわゆる「順風満帆」と言われる人生。
だからこそこう言われることも幼い頃からあった。
「貴方は充分すぎる環境に生まれたから出来ること。」「七光り」「本当の実力なんて無いくせに。」
全て涼しい顔をして流していった。そう言われるのはこの家系で生まれた定めなのだから。
ただ、私の本当の魅力を知らずにそう言われるのはなんとも癪であった。
そんな時、事務所がアイドルグループを立ち上げるという話が出てきた。
私が特待生枠でオーディション無しで所属するという話も水面下であった。でもそれは私の魅力で所属したことにはならない。「それぞれの魅力を魅せるグループ」に”そんな私”はふさわしくない。
そうわがままを言って、私は1からオーディションを受ける事になった。第三者の歌唱・ダンス・個性の審査を受けて私は勝ち上がっていった。
予測はしていたが、候補生の陰口は聞こえて来る。「事務所令嬢がいたら枠が減る、消えてほしい。」なんてのもあった。
そんな中、1人だけ私に笑顔を見せてくる人がいた。西村穂希。今ではメンバーの1人。
彼女はミュージカル子役出身で、あろうことかライバルであるはずの私に、現代ダンスのアドバイスまで逐一くれたり、一緒に歌唱の自主練習もしていた。
「みゃーこと私は絶対勝ち上がれる自信があったから、一緒に頑張りたいと思った。それだけ。」
当時のことを穂希に聞いても、いつもそう答える。
そんな素敵なご縁に恵まれて、私は幸せ者だ。
「お披露目まで長い期間が空いてしまいましたが、私はその分細部まで魅せることにこだわって参りました。そんなステージ、瞬き厳禁です。では・・・いざ参りましょう。」
かっと目を見開き、ソロステージが始まりを告げた。
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